もか・ざ・ぶらっく

検証用です

台風一過にはあれが必要だった

 

 布団がふっとんだ。

 

 いや、使い古されたジョークではなくて、わたしの眼の前で、台風一過の抜けるような青空へと舞い上がると、わたしの上掛け布団は階下の花壇へ落っこちた。

 ふわっと浮かび上がるその一瞬の出来事は、ほんの少しだけ優雅さを感じさせたりもした。

 昨日は台風が上陸したので、わたしは部屋でずっと布団に包まって過ごした。

 一昨日はアイツにフラれた。

 なので、正確にいうと、昨日のわたしは布団に包まって、一日中泣いていた。

 かわいそうなわたし。

 健気なわたし。

 いじらしいわたし。

 そして今日、朝、目が覚めると気がついた。

 わたしの布団は、台風が連れてきた湿気と、わたしの涙の水気が染みこんで、陰気な何かを強烈に発している。

 布団を干さねば。

 このいじけた感情を天日干ししなくては。

 ぜんぶ消毒しなくては。

 わたしは、この身に湧き上がる猛烈な義務感に突き動かされて、布団を抱えてベランダへと乗り込んだ。

 そして、ありったけの力を込めて、物干し竿へと布団を跳ね広げた。

 ぱぁっと布団は大きく広がると、狙ったとおりに物干し竿へと綺麗に掛かった。

 煌めくような日差しが高く降り注ぎ、空はどこまでも遠く青く突き抜けていた。

 カラッと乾いた風がわたしの頬を手荒に撫でながら、髪を無造作になびかせる。

 そんな刹那の風景の美しさに、わたしは、この世界も悪くないと思ってみたりした。

 暫し、布団と青空のコントラストを眺める。

 そこで強風が吹いた。

 台風の残滓。

 布団は宙へと浮かび上がった。

 

 花壇にだらしなく広がる布団を見下ろしながら、わたしは階段の踊場に転がっていたモノを想い出す。

「あー、やっぱり、あれって必要だわ」

 

 布団バサミ

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